私の人生ストーリー

「今あるものを大切にする」という生き方

今村りつこさんはinterior studio Curro という屋号の元、フリーで活動する広島県在住のインテリアコーディネーターだ。彼女の提供する看板サービスは「出張インテリアコーディネート」ー家具の買い替えやリフォームを前提とせず、お客様の家を訪問、インテリア全般についてアドバイスをし、可能ならば家具を動かして変えていく、というありそうでなかったものだ。

心地よさを求めて

外に幸せを求めるのではなく、我が家がいちばん好きな空間になればいいー今村さんが「出張インテリアコーディネート」を提供するにあたっての根本にある考えだ。「おしゃれじゃなくてもいい、家族が心地よいと感じる空間になればよい」と言う。おしゃれじゃなくてもいいと言うコーディネーターがいるなんて!と私はたいそう驚いた。でも‶おしゃれ”や‶かっこいい”は人によって違うけれど、‶心地よさ”の基本は多くの人に共通するものだ、という彼女の考えを聞いて合点がいった。「心地よさを感じるには、まずモノがあるべき場所に収まっていることが大切。それから風が通り、光が入ってきてきて自然を感じられること」だから、新しい家具や雑貨を買うことは心地よい空間にするために必須ではない。今あるものを動かすだけで、ずいぶんと心地よさが変わり、求めている空間が実現し、そこから求めている空間が見えてくることが多々あるという。

まずは今あるもので、もっと心地よい状態にならないかやってみよう。その視点は今村さんの人生その物だ。

流れに乗ればうまくいく

今村さんはものすごく自然体だ。個人事業主ならだれでも多少なりとも見られそうな、ああしよう、こうしよう、でもうまくいかない・・・という力みのようなものが全く感じられない。彼女の今まで歩んできた道を振り返ってもそう感じる。

フリーになる前は大手住宅メーカーで10年間インテリアコーディネーターとして勤めていたというのだから、専門学校などでインテリアを学び、念願の住宅メーカーに就職、という経歴を想像していたら・・・全く違う。「就職活動に落ちまくっていたとき、学校に貼っていた求人募集に住宅メーカーの営業事務があったんです。名前は知っている会社だし、事務所は町の中心にあるし、いいかも」と面接に行き、たまたまインテリアアドバイザーとして配属されたのが今のキャリアの始まりだというのだから驚いてしまう。

「私はいつも行き当たりばったり。でもそんな自分を変えようとは思っていません。流れに乗ればうまくいくという実感があるんです。今まで全部流れに乗ってきたし、そこでいい出会いがたくさんあった。来たものを拒まずやっていけば、全部繋がってうまくいくのです。」このように堂々と言える人は一体どれくらいいるのだろう。

持っているもので

「女の子は家から通えるところで」という家族の希望で大学も仕事も地元で探した。環境に恵まれ辞めたいとは一度も思わなかったという住宅メーカーの仕事も、出産を期になんの迷いもなく辞めた。そこに我慢しているという感情は全くなかった様子で、今村さんはごく自然にその出来事を語った。子育てがひと段落し、何かしたいなと思った時に受けたセッションで「持っているもので始めるといい」とアドバイスされ、再びインテリアに関する仕事をフリーで始め、今に至る。

あるもので・・・と多くを望まない人生は見方によってはもっと貪欲に、高いところを目指せばいいのに!と思う人もいるだろう。でも、今村さんは、まだ見ぬ道を探し求めるのに労力を使うのでなく、すでにある道を丁寧に舗装しながら幸せそうに歩いている。「今を大切にしていれば、次が来るんです」と本人が言うように、がむしゃらに新しいものを手に入れたがるのではなく、波に乗って自分のもとにやってきたかけらを大切に磨き上げ、道の一部として加えていくことができる人なのだろう。

自信を味方につけて

彼女が身にまとう、ゆったりとした自信はどこから来るのだろう?私は取材中ずっと不思議に思っていた。自信と言っても、いばっている、とか自分を大きく見せる、という感じは全くない。ゆらゆら波に揺られるけれども、しっかりと根を張っている海藻・・・そんな感じだろうか。

その疑問は、インタビューの最後の方に解けた。実は私もインテリアコーディネーターの仕事に憧れ、産前・産後独学で勉強し、資格を取得した。「でも・・・実務経験がないから、仕事として受ける自信が持てない」とポロッと言った言葉に、今村さんは力強い言葉を返してくれた。「始めない限り経験にならない」「石原さんは整理収納アドバイザーとして家をたくさんみてきているのだから、今すぐにでも仕事にできるよ!」「私は現場での経験がすべてだと思っているから」・・・そうか、真摯に仕事に向かい合ってきた経験と実績が今の今村さんの自信の源なのだ。私はとてもシンプルな事実に気が付いた、

今村さんは多くを求めないが、今ある場所であぐらをかいている人ではない。フリーになってからも、いろいろな勉強会やワークショップを開催し、自分に提供できるメニューを考え、思考錯誤しながら歩んできた、歩みだすことに躊躇する人ではないのだ。

今の時代、生き方も暮らし方も、数えられないほどの選択肢があって、この選択でいいのだろうか?と不安を感じながら生きている人が多いように感じる。そんな中「ほかの道もあって、そっちでもうまくやっていたような気がする」と言いながら、選んだ人生に幸せを感じている今村さんの生き方は何とも魅力的に映る。「何でもよかった」と今の仕事にしがみつかず、でも情熱を注いでいる様子は、心健やかに暮らすお手本のように感じるのである。

2020,3,3 wrighted by Tomoko Ishihara